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90点

 

あらすじ
“世界中のすべての金を手にした”といわれる大富豪ゲティ。17歳の孫ポールが誘拐され1700万ドルという破格の身代金を要求されたゲティは、こともあろうことかその支払いを拒否。彼は大富豪であると同時に稀代の守銭奴だったのだ。離婚によりゲティ家を離れ一般家庭の人間となっていたポールの母ゲイルは、息子のために誘拐犯のみならず【世界一の大富豪】とも戦うことに。警察に狂言誘拐を疑われ、マスコミに追い回され、疲弊していくゲイル。一方、一向に身代金が払われる様子がないことに犯人は痺れを切らし、ポールの身に危険が迫っていた。それでもゲティは頑なに支払いを拒む。愛する息子を助け出すため、母は一か八かの賭けに出るのだった…。

 

 

傑作。ブレードランナーとエイリアンは別格としてこれがリドリースコットの作品で3番目に好き。

大富豪の内面に迫ったり意外な人物の人情が見れる人間ドラマでもあり、そして皮肉満載のブラックコメディでもある。サスペンスとしては停滞してる感じがするのもこのブラックコメディ感ゆえだと思う。
リドリースコットがよくテーマにしている神も仏も無いような状況で闘う人々の話。そしてあまりに酷い現実や登場人物のバカな行動で思わず笑ってしまうという。

オデッセイは火星にひとりぼっちという絶望的状況でとにかく明るく科学を利用して生き残る話だったけど、今回は息子がイタリアの巨大犯罪組織に誘拐された上に、その祖父の世界一の大富豪がドケチすぎて身代金を払ってくれない、その大富豪が送ってきた交渉人も全然役に立たないという絶望的状況でもがく母親という構図。

なんとか大富豪ゲティ爺にお金を払って貰おうとする→ダメでした、救出もしくは息子が脱出しようとする→ダメでした、自力でお金を工面しようとする→ダメでしたって言う繰り返しも地獄めぐり
感増してて良かった。

笑った部分

・ゲティ爺が誘拐犯との身代金取引みたいな会話しながら実は絵を買ってたところ

・たびたび覆面つけ忘れて孫に顔見られて逆ギレする誘拐犯たち

・ゲティが昔くれた骨董品を換金しようとしたらただの土産物だったくだり

皮肉だったのは結果的に息子は無事帰ってくるも、結局はゲティに頼ってしまったこと。

みんな結局金頼み。

この映画の原題は「all money in the world」。
普通に考えたらゲティ爺の止まらない欲望を現してる「この世の全ての金」って意味だと思うけど、「この世は全て金」って意味でも考えられるかもしれない。

そう考えると劇中で唯一「金なんかどうだっていい!」ってセリフではっきり言うのが誰なのかっていうのが面白い笑。

あと、ゲティ爺は孫のことは愛してるが身代金は絶対に払わないと言って粘ってみせ、結果的に当初は17億だった身代金を4億円にまで値切った形になる。
序盤に安い土産を何時間も粘って更に安くしたという彼の話が出てくるのもそういう意図かもしれない。

しかも孫より美術品の収集が大事なように見せて、結果的には彼が死んだあと、孫や家族に還元している展開も皮肉。結局みんなゲティに助けられてみんなゲティから逃げられなかったのか。
ラスト、遺品整理してたらゲティの銅像が出てきて、それと目が合って母親ウンザリって展開も笑った。彼女も一生ゲティの影を背負って生きなきゃいけないのか。

その他お気に入り点

リドスコの映像美はさらに磨きがかかっており、室内の陰影バッキバキの映像、誘拐先の南イタリアの風景も美しい。特に日が暮れていく中で燃える草原をバックに逃げるシーンは綺麗だった。

そんでキャストも素晴らしい。
ゲティ役のクリストファープラマーは流石の貫禄かつ味わいのある演技で最高。

YouTubeにスペイシーがゲティ役だった時の予告編が上がってるんだけど、彼のバージョンだとただただ冷たい表情で怖い感じでプラマー版にある若干の憎めない雰囲気がない。

予告編で繰り返し流れてる「絶対に払わん」の場面でもプラマーは若干の笑みを浮かべて演じてるのに対し、スペイシーはメイクのせいもあるかもだが無表情。
プラマー版のあの笑みのおかげでゲティが何を考えてるか読みづらくなって話に深みが出たと思う。

ミシェルウィリアムズもただ善良なだけじゃない母親役がぴったりで強すぎない強い女性像で良かったし、使えない交渉人って設定ならマークウォールバーグはぴったり笑。

また誘拐された息子と友情が芽生えてしまう人情派犯罪者チンクアンタを演じたロマンデュリスも最高。あの犯罪しか生きる道がなさそうな風貌ながらしっかりイタリア人らしい人情味や人生に疲れた雰囲気があって1番素直に感情移入してしまった。

チンクアンタ以外も誘拐犯チームが全体的に登場人物の中で人間味ある方に描かれていたのも皮肉。話題の耳切り取るシーンは凄惨ながらも周りの誘拐犯達が「頑張れ!」とか言ってたり、押さえながら目を背けたり、神に祈ってたので笑えた笑。

とにかく先が読めないブラックコメディサスペンスで最高でした。